炎症性腸疾患

なぜ当クリニックは炎症性腸疾患の治療に力を入れるのか?

なぜ当クリニックは炎症性腸疾患の治療に力を入れるのか?

これまでも大学病院で炎症性腸疾患の診療を行っておりましたが、患者さんの多くが学生さんや働き盛りの方が多く、平日午前のみの外来診療枠では不便を感じておられました。
このたび私が開業する理由の一つにも炎症性腸疾患の患者様通院しやすい環境を作るべきとの理念があり、当院では炎症性腸疾患の患者様が気軽に通院できるようにしていきたいと考えております。

炎症性腸疾患とは

潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎とは

大腸の粘膜の最も内側の層に、びらんや潰瘍ができる炎症性の疾患を潰瘍性大腸炎と呼びます。炎症は直腸から連続的に口の方へと広がるという特徴があり、直腸から結腸全体に及ぶほど広範囲に炎症が生じることもあります。潰瘍性大腸炎は炎症の広がり方や症状の経過に応じて以下のように分類されます。

  1. 病変の拡がりに基づく分類:全大腸炎型、直腸炎型、左側大腸炎型
  2. 病期の分類:活動期、 寛解期
  3. 重症度による分類:軽症、中等症、重症、激症
  4. 臨床経過による分類: 再燃寛解型、慢性持続型、急性激症型、初回発作型

潰瘍性大腸炎の原因

明確な発症原因はいまだ解明されていません。なお、腸内細菌による影響、自己免疫機能の異常、食生活の欧米化などが関係していると考えられていますが、正確な原因は不明です。

発症年齢

潰瘍性大腸炎グラフ

男性は20~24歳、女性は25~29歳で発症のピークを迎えますが、高齢の方でも発症リスクはあります。発症に男女差はあまりありませんが、虫垂切除をした方の発症リスクが下がること、また、喫煙者の発症リスクが低いことが分かってきています。

症状

下痢や血便、痙攣を伴う腹痛が持続するといった症状があります。重症化すると、発熱、貧血、体重減少といった全身症状が現れることもあります。その他にも、皮膚や関節、眼に合併症が起こる場合があることでも知られています。

遺伝

近年、世界中の研究者によって潰瘍性大腸炎の発症に関係する特異的な遺伝子の存在が報告されており、遺伝子によって発症しやすい型があることが分かってきています。しかし、その遺伝子型を持っているからと言って必ずしも発症するとは限らず、食生活などの環境要因と合わさって発症につながると考えられています。

検査・診断

検査・診断 問診によって症状の経過や既往歴を確認することから診断はスタートします。潰瘍性大腸炎の診断においては血性下痢を引き起こす他の感染症との区別が必要であり、下痢を引き起こす他の細菌や感染症について鑑別診断を行います。そして、内視鏡検査やレントゲン検査によって大腸の内部を観察し、大腸粘膜の組織の一部を採取する生検を行って病理診断を実施します。

治療

薬物療法や血球成分除去療法が中心です。場合によっては外科治療を行うこともあります。薬物療法では、5-ASA製剤の経口薬や注腸薬を使用していきます。活動期の寛解導入目的にステロイド剤の経口薬や注腸薬を用いることが可能となっております。重症の患者様に対しては5ASA製剤とステロイド剤が主ですが、抗TNF-α抗体製剤やタクロリムスといった新しい治療薬も重症の患者様に対して用いられるようになってきております。血球成分除去療法は中等以上の患者様でステロイド治療の効果が不十分な場合に実施されます。


クローン病とは

クローン病とは

クローン病は主に若い方の患者様が多い炎症性腸疾患です。発症は、口腔から肛門まで消化管のどこにでも炎症や潰瘍が起こり得るものですが、小腸と大腸、特に小腸の末端に起こりやすい特徴があります。炎症は非連続的(病変と病変の間に正常部分が存在する状態)に発生します。

クローン病の原因

発症原因としては、遺伝的な要因、結核菌類似の細菌や麻疹ウイルスによる感染症、食事の中の成分が腸管粘膜に異常を起こす、腸管内の血管が血流障害を起こすなどが考えられていますが正確な原因は未だ解明されていません。最近の研究によって、遺伝的な要因がある方が、腸の中のリンパ球などの免疫細胞が食事や腸内細菌に対して過剰反応を起こすことで、発症につながるのではないかと考えられています。

発症年齢

クローン病グラフ10~20代の若い方の発症が多く、男性では20~24歳、女性では15~19歳で発症のピークを迎えます。また、男女比は約2:1でどちらかと言うと男性の患者様が多い傾向にあります。先進国、特に北米やヨーロッパで発症率が高いと言われており、衛生環境や食生活による影響があると考えられます。生活水準が高い地域の方ほど、動物性脂肪、タンパク質を多く摂取しているため、発症率を上げる要因となっていると考えられます。また、喫煙の習慣がある方も発症しやすい傾向にあります。

症状

症状が発生する部位によって、様々な症状があります。よく見られる症状としては下痢や腹痛で、半数以上の患者様に現れると言われています。下血、発熱、腹部の腫瘤、貧血、全身の倦怠感、体重の減少といった症状も多く見られます。腸管の合併症(腫瘍、狭窄、瘻孔など)、腸管以外の合併症(肛門部の病変、結節性紅斑、虹彩炎、関節炎など)を起こすことも多いです。

遺伝

クローン病は遺伝病ではありませんが、人種や地域で発症率に差があり、家庭内発症の例もあるため、遺伝的な要因が関係している可能性はあります。クローン病を発症しやすくなる遺伝子の型が複数あることが分かってきていますが、その遺伝子を持っていれば必ず発症するという訳ではなく、環境要因と複合して発症に至ると考えられています。

検査・診断

クローン病が疑われる症状があり、大腸カメラや小腸造影、胃カメラなどの画像検査によって特徴的な病変が見つかった場合は確定診断となります。

治療

治療としては、薬物療法や食生活の改善が中心となり、場合によっては外科治療を行うこともあります。薬物療法では、軽症や寛解の方に対して5ASA製剤が用いられ、最近は免疫抑制剤、抗TNFα抗体製剤等も効果が高いということで使われるようになっています。副作用が比較的少ないブデソニドという新たなステロイド剤が使われるようにもなっています。食事指導としては、下痢を誘発する動物性脂肪が多い揚げ物などは控え、消化しやすく低脂質な和食を中心とした食事をお勧めしております。

炎症性腸疾患の治療

当院で対応可能な薬

炎症性腸疾患 表

生物学的製剤

生物学的製剤とは

遺伝子組換え技術や細胞培養技術といったバイオテクノロジーを用いて生成された薬剤のことで、特定の分子をターゲットとした治療で用いられます。バイオやバイオ製剤とも呼ばれる薬剤です。生物学的製剤は高分子の蛋白質でできているため、内服すると消化されてしまいます。そこで、点的もしくは皮下注射によって体内に注入します。

公費助成制度について

潰瘍性大腸炎・クローン病は法律によって指定難病に認定されており、「重症度分類等」に基づき一定の重症度を超えている場合は医療費の助成を受けることができます。ただし、潰瘍性大腸炎・クローン病の患者様であれば必ず助成を受けることができるという訳ではなく、重症度が中等度または重度の患者様が主な対象となります。なお、軽症の患者様であっても、長期的に考えて高度医療を続けていく必要がある場合に関しては、助成を受けることが可能です。

申請方法

医療費助成の支給認定を受けるためには、お住いの地域の保健所などの窓口で手続きを行う必要があります。申請にあたっては、「臨床調査個人票(りんしょうちょうさこじんひょう)」という診断書などが必要となります。そして無事に支給の認定を受けると、医療受給者証という書類が交付されます。申請手続きの詳細に関しては、お住まいの地域の保健所へお問い合わせください。

よくある質問

潰瘍性大腸炎

食事など日常生活で気を付けることはありますか?

十分な睡眠を取って疲れを残さないようにするなど、規則正しい生活を送ることが大切です。食事や運動については、症状が落ち着いた寛解状態であれば特に制限することはありません。また、コーヒーなどのカフェインが含まれる飲料も、症状が悪化している状態でなければ、常識の範囲内の量で飲んでいただいて構いません。

普通の人と変わらない生活を送れますか?

長期的に薬を服用したり、入院が必要になったりする場面もありますが、基本的には普通の生活を送ることが可能です。薬の服用によって症状の悪化を防ぐことができますので、自己判断で服用をやめたりせずに、医師の指導の下で決められた用量、回数で服用を続けていくことが大切です。

妊娠や出産に支障は出ますか?

基本的には大きな問題はありませんが、大腸全摘出手術を受けた女性の患者様は自然妊娠の確率が下がると言われています。ただし、人工授精は可能です。男性の場合、サラゾピリンの服用によって、一時的な男性不妊の状態となりますので、妊娠を希望される方は5-ASA製薬の服用に切り替えることをお勧めします。その他にもアザチオプリン等の免疫抑制剤やステロイド等、妊娠に適さないお薬もありますので、医師にご相談ください。

精神的な原因で発症したり、症状が悪化したりすることはありますか?

精神的な要因での発症は起こりません。しかし、精神的ストレスは、潰瘍性大腸炎に限らず様々な病気の症状を悪化させる原因となり得ますので、腹痛や下痢といった症状の悪化につながる恐れはあると言えるでしょう。

旅行に行くときに注意することはありますか?

長期旅行に行かれる際は、事前に医師にご相談ください。旅行の前に服用している薬の名前とお手元にある薬の量については確認しておくと良いでしょう。海外旅行の際は、服用している薬の一般名を控えて置くようにしてください。

合併症は起こりますか?

腸管の合併症としては、中毒性巨大結腸症、穿孔、大出血、または、経過観察中に起こる狭窄やがんがあります。腸管以外の合併症としては、関節痛、皮膚症状、目の痛み、肝機能障害などがあると言われています。

潰瘍性大腸炎は完治しますか?

現代の医療では完治させることは難しいです。しかし、規則正しい生活習慣の維持と薬の服用を続けることで、長きにわたって症状が落ち着いた寛解状態を維持することが可能となり、病気を発症する前と同じような生活を送っている方は多くいらっしゃいます。

症状がない状態でも内視鏡検査を受けるべきですか?

仮に症状がなくても、定期的に内視鏡検査を実施する必要があります。内視鏡検査で大腸内の炎症の程度や広がりを直接確認することで、今後の治療方針やお薬の服用方針について判断するために役立ちます。発病から7~8年異常経過した全大腸炎型の患者様は大腸がんの発症リスクもあるため、最低でも年に1~2回の内視鏡検査をお勧めします。

海外と国内で治療法は同じですか??

大きく違う点はありません。5-ASA製薬による治療を基本とし、炎症が強い場合にはステロイド剤を組み合わせた治療を行います。炎症が収まらない方やステロイド剤をやめると炎症が悪化する方には、免疫抑制剤などの内科治療を実施します。

今は症状がありませんがいつまで薬を飲み続ければよいでしょうか?

通常の患者様は症状の寛解と再燃を繰り返す傾向にありますので、症状がなくても5-ASA製薬を用いた治療を継続する必要があります。5-ASA製薬は長期間服用しても安全な薬であり、大腸がんなどの重大な合併症を予防する効果もあると分かってきています。薬の服用にお悩みや不安な点があれば、まずは当院へご相談ください。。

薬を飲まずに10年以上症状が現れないことはありますか?

症状の経過には個人差がありますので、長期間症状が出ない方もいらっしゃいます。薬の服用有無によらず、一度症状が落ち着いてから症状が長期間現れない方については、改めて診断を受けてみても良いでしょう。初期診断では腸管感染症などが潰瘍性大腸炎と診断されていることも想定されます。

クローン病


症状

どのような腹痛が起こりますか?

初期段階では一時的な腹痛が多いですが、腸管に狭窄を起こしている場合は、食事によって痛みが増すことがあります。

どのような下痢が起こりますか?

腸管の粘膜が炎症を起こすことで水分の吸収機能に支障をきたし、腸の中へ水分が滲み出ることで下痢になります。夜間に下痢の症状が起きる場合はクローン病の症状が悪化している恐れがあります。夜間に経腸栄養を行っていたり、抗生物質を服用したりしている場合でも下痢が起きます。

クローン病の体重減少とは?

体重の減少は、食事の摂取量の低下、栄養素の吸収量の低下、下痢、出血、たんぱく質が漏れ出すことによる喪失が原因となります。また、発熱、代謝の亢進、潰瘍などによってダメージを受けた組織を修復するために必要なエネルギーの増加も原因となります。

合併症はありますか?

消化管で起こるが合併症としては、腸管の穿孔、腸管の狭窄、瘻孔、腸管と腸管もしくは償還と皮膚に孔が開くなどが挙げられます。さらに、消化管からの大量出血が起こることもあります。

成長障害はありますか?

子どもが炎症性腸疾患を発病すると、ビタミン、ミネラル、カロリー、たんぱく質が不足することで、成長障害や性機能の成熟障害を起こすことがあります。また、ステロイド治療による副作用で成長ホルモンの分泌が低下し、成長障害を起こすこともあります。


クローン病の診断について


診断や治療はどのように実施されますか?

まず問診の所見や既往歴の有無によって、クローン病の疑いをかけます。そしてレントゲン検査や内視鏡検査によって、類似する症状が現れる疾患と区別した上で確定診断となります。 治療法は、病変の場所、範囲、程度、合併症の有無などから、薬物療法、栄養療法、外科手術など、それぞれの患者様に最適なものを選択します。

クローン病と区別すべき疾患はどのようなものですか?

潰瘍性大腸炎、腸型ベーチェット病、エルシニア菌などの感染による急性回腸末端炎、腸結核、虚血性大腸炎などです。

血液検査はなぜ行うのですか?

確定診断の前段階では、炎症の有無や貧血、栄養失調、その他合併症の有無について確認するために行います。確定診断の後は、病気の経過観察や治療方針の効果測定および方針検討において用いられます。

症状はありませんが内視鏡検査は必要ですか?

症状がない方でも、定期的に内視鏡検査を受ける必要があります。病変の状態を直接確認し、今後の治療方針の策定や治療の効果が出ているかを確認するために、内視鏡検査は非常に有効です。また、最近では、小腸の病変も内視鏡で確認することが可能となっています。

最初は潰瘍性大腸炎と診断されましたが、後にクローン病の診断へ変わることはありますか?

潰瘍性大腸炎とクローン病は全く性質が違う病気ですが、診断をする時期によっては症状の現れ方が似ていることもあり、慎重な診断が求められます。したがって、症状の経過によっては途中で診断結果が変わることもあるのは事実です。


症状


日常生活で気を付けるべきことはありますか?

十分な睡眠をとって疲労を残さないようにして、規則正しい生活を送るようにしましょう。症状が収まっている状態であれば、特段食事や運動に制限がかかることはありません。

食事で気を付けることはありますか?

症状が現れている時期は特に低脂肪で胃腸にやさしい食事を心がけましょう。腸管が狭くなっている状態であれば消化の悪い食物繊維を多く含む食品の摂取は控えましょう。人によって症状は異なりますので、ご自身の身体に合った食品を把握し、症状の悪化を防ぐようにしていきましょう。

妊娠出産に影響はありますか?

妊娠自体は可能ですが、健康な方と比べて受胎率が低い傾向にあり、特に症状が現れている時期は受胎率が下がると言われています。妊娠を希望される場合は、できるだけ症状が落ち着いている時期に合わせて妊活の計画を立てることをお勧めします。

クローン病は遺伝しますか?

クローン病は遺伝病ではなく、発症の原因となるような特定の遺伝子は見つかっていません。欧米人については、NOD2遺伝子の変異が10~20%の患者様に見られるという報告が過去にありましたが、日本人には該当しない話です。しかし、クローン病の患者様のご家族は、そうでない方と比べてクローン病の発症リスクが高いと言われています。

仕事に制限は出ますか?

一般的な仕事であればクローン病が理由で就業を制限する必要はありません。しかし、症状がストレスや疲労の蓄積によって悪化する恐れがあるため、十分な睡眠をとるなど規則正しい生活リズムを意識しましょう。


治療


クローン病は完治しますか?

長現代の医療では完治することは難しいのが実情です。しかし、長期間症状が落ち着いた状態を維持している患者様も多くいらっしゃるため、症状が再燃しないように上手く病気と付き合いながら、治療に取り組んでいく必要があるでしょう。

クローン病の治療では何度も手術を受けることになるのですか?

腸の狭窄や腸閉塞などで手術が必要となることもあります。頻度は比較的高く、発症後5年で約36%、10年で約46%という話もあります。手術後に再び同じ症状が現れることもあり再手術を要することもあります。しかし、抗TNF-α抗体製剤などの薬物治療が進歩した結果、最近では手術率が10年間で26%程度まで下がってきているという報告もあります。

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